PressRoom.jpプレスルーム引継帳の余白080101

政治家の病気

引継帳の余白~全国紙デスクの日々

08.1.1

 住友生命が募集した2007年の「創作四字熟語」で優秀作の一つに選ばれた「突然返位」には、クスリと笑ってしまった。本来なら、笑うような話ではないのだが。

 安倍晋三・前首相の唐突な辞任は、読売新聞の「今年(2007年)の十大ニュース」でもトップに挙げられた。新聞社の編集局でも、最初に速報が流れた時、記者たちは「えっ」「うそ~」と女子高生みたいな声を上げていたのだから。

 先日、安倍首相時代の官邸スタッフの一人と話す機会があった。辞任後しばらくして、やっと体調が回復してきた安倍さんが、スタッフたちを自宅に招き、慰労会を開いてくれたそうだ。昭恵夫人も出席し、夫婦で心から、もてなしてくれたという。「別居」を報じる週刊誌もあったが、どうも飛ばし気味の記事だったようだ。

 「安倍さんは人柄が良すぎて、体調を崩しちゃったんだろうな」。そのスタッフの見立てである。安倍さんの辞任を巡っては、評論家らが「もっと早く、体調不良を説明すべきだった」と批判していたが、どうだろう。辞任後はともかく、病気を隠すのが政治家のならいである。ただの「風邪」が、噂で「癌」に化ける世界なのだ。病気と知られるだけで、政治力は急落する。

 自民党の実力者だった大野伴睦が入院した際には、深刻な病状を隠すため、秘書が大野の趣味だった俳句を偽作し、大野の死まで公表し続けたそうだ。

 私も、ひとつ強烈な思い出がある。かつて、閣僚経験者の自民党ベテラン議員の自宅を何度か夜回りした。かなり高齢の方だったので、夜は比較的早い。早い時間に夜回り取材できるので、他の政治家のところにも転戦可能で、重宝した。口は堅かったが、応接間に上げてくれ、真摯に応対する議員の人柄にも好感が持てた。

 ところが、である。ある時期から、夜回りしても不在が続くようになった。訪問するたび、上品な奥さんが出てきて「ご苦労様ですね。ごめんなさい。主人は、今日は早めに休んでますの」「今夜は飲み会で、帰りが遅くなるとか申してまして」と、毎回違う理由を口にする。口調はにこやかなのだが、数回続くと、鈍い私も、さすがに「こりゃ変だ」と気がついた。嫌われる理由も思いつかない。

 別の政治家に取材すると、どうも体調を崩して入院しているらしい、とわかった。派閥の領袖クラスとは違い、入院を記事にするほどでもない。退院したら、あいさつに行こうと思っているうち、議員はなくなった。奥さんが私に不在を告げていたころ、すでに病状はかなり悪化していたようだ。

 夫が死の床にありながら、そぶりも見せず対応する……。奥さんの姿に「政治家の妻」の凄みを感じた。この世界を生きていくには、やっぱり安倍さん、人柄が良すぎたんだろうな。

LinkIconデカ部屋(08.1.15)

引継帳の余白~全国紙デスクの日々 記事リスト

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デカ部屋(08.1.15)
政治家の病気(08.1.1)

足腰は弱り体力も落ちたけど相変わらず青臭いこと言っている。そんなオヤジ記者の日常報告。考えるきっかけを提供できれば。 [全国紙デスク]

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