PressRoom.jpプレスルーム引継帳の余白080214

芭蕉は隠密だった?

引継帳の余白~全国紙デスクの日々

08.2.14

 「奥の細道」の俳人、松尾芭蕉は隠密だったという説がある。忍者の里・伊賀の出身で、全国を歩き回ったことからの連想らしい。私なんかは「隠密だったら、各地で俳句を詠んで、痕跡を残すような、目立つマネはしないだろう」と思うのだが、隠密説を唱える人からすれば、「それがむしろ隠れ蓑になった」ということのようだ。

 実際、英国の作家、サマセット・モームは第一次大戦中、自国の諜報機関で活動した。モームの小説「アシェンデン」は、自身の体験を題材にしたものだ。名を知られた作家だから、諜報員と疑われずに済むという理由でスカウトされた、と振り返っている。そうなると「芭蕉=隠密」説は、意外に本当かもしれない。まあ、どうでもいいけど。

 こんな話を持ち出したのは、NHK職員による株式のインサイダー取引の報道を見ていて、記者という職業の持つ、危うさを思ったからだ。今回の事件は情報に接した周辺の人間が引き起こしたものだが、取材者本人が記者という立場を隠れ蓑にしてカネもうけに奔走すれば、もっと大がかりに私腹を肥やせるだろうと思う。

 たとえば企業の不祥事などのネガティブ情報を知った時点で、株価下落を見越して株式の空売りをしかければ、確実にもうけられるだろう。個別の企業情報に限らない。政府の経済対策の概要をつかみ、恩恵がありそうな業種の株式に買いを入れることだって、考えられる。摘発されるのは、いつも氷山の一角だ。罪に問われる恐怖感は薄いかもしれない。結局、歯止めになるのは倫理観しかない。

 昔の政治記者の中には、自分の担当する派閥のため、他の派閥の情報を集めてきて領袖にご注進していた輩もいたそうだ。これなど、金銭は媒介しないものの、やっていることはインサイダー取引と変わらない気がする。ただ、政治家も心得ていて、偽情報を流す「狸と狐の化かし合い」だったそうだから、けしからんと断罪できないようだが……。ともかく、こんなことを考えると、倫理観もどこまで有効か、いささか、心もとない。

 もっとも、「じゃあ、お前はどうだったのか?」と問われると、掛け値なしに「情報でカネもうけしようなどと、考えもしなかった」と言い切れる。別に偉そうに言うわけじゃなくて、せっかくつかんだネタをどう紙面展開するかで頭がいっぱいで、他のことを考える余裕もなかったからだ。

 たぶん、ほとんどの同業者はみな同じでしょう。「小人閑居して不善をなす」わけじゃないが、締め切りに追われ、目の回るような忙しさの中にいれば、妙な気など起こらないものだ。

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足腰は弱り体力も落ちたけど相変わらず青臭いこと言っている。そんなオヤジ記者の日常報告。考えるきっかけを提供できれば。 [全国紙デスク]

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