PressRoom.jpプレスルーム引継帳の余白080613

成長の限界

引継帳の余白~全国紙デスクの日々

08.6.13

 民間シンクタンクのローマ・クラブが「成長の限界」と題した報告書を公表したのは、1972年のことだ。資源の枯渇や食料不足を予想し、人類の未来に警鐘を鳴らした。その翌年、第一次石油危機が起こる。「成長の限界」は大いなる予言の書として、深く世間の記憶に残ることになった。

 もっとも、「成長の限界」の予測そのものは、かなり外れた。いちばん有名なのは「石油はあと15年で枯渇する」という見通しだろう。クラブの創設者、ベッチェイ博士は石油業者で、「相場をつり上げるため、悲観的な話を広めた」という悪評もあるほどだ。食料問題についても「2000年を待たずに絶望的な土地不足がやってくる」とあるが、これまた、外れたと思われてきた。少なくとも、今年春までは……。

 ここに来て、穀物価格の異常な高騰で世界が揺れている。国際価格を1年前と比べると、コメは2.9倍、大豆は1.8倍、トウモロコシは1.6倍、小麦は1.7倍。アフリカやカリブ海諸国では暴動が起きている。世界的な「米騒動」の様相を呈している。

 ちなみに、大正7(1918)年に起こった米騒動では、前年1月に1石=15円だった大阪・堂島の米相場価格が、7年7月には2倍以上の30円台になった。これで富山県の漁師の女房たちが立ち上がり、全国に騒動が広がっていった。

 現在の食糧高騰も、ほぼ同じような価格上昇で、暴動が起こるのも当然だろう。なぜ食糧が高騰したのか、その要因はもう一つはっきりしない。投機資金の穀物市場への流入とか、米国やブラジルが進めるバイオエタノール増産の影響だとか、穀物輸出国の天候異変だとか。まあ、いくつも絡み合っており、いわば複合要因といえる。だから、対策も決定打を欠く。

 6月3~5日にローマで開かれた国連食糧農業機関(FAO)の首脳会議も、生産国と消費国の意見が対立して、結局、有効な手だてを打ち出せなかった。もっとも、私自身は、今の危機がいつまでも続くとは思わない。今年は主要生産国が豊作らしいから、収穫期がくると状況はぐっと改善されると予想している。ただ、問題は、生きていくため不可欠な食糧価格がちょっとしたことで乱高下する不安定さを抱えていることだ。

 日本とて無縁ではない。たびたび飢饉が起きた江戸時代は、たかだか百数十年昔である。日本人皆が、三食ともコメの飯を口にできるようになったのは、戦後になってからだといわれる。豊かになり、世界中から欲しいモノを買えるようになって、食生活が豊かになったわけだ。カロリーベースでの食料自給率は、わずか39%である。

 日本の消費者には、遺伝子組み換え作物(GMO)の評判は悪いが、近い将来、「飢餓かGMOか」という選択を迫られるかもしれない。

 ところで、大正の米騒動の結果、無策だった官僚内閣が倒れ、原敬が首相になり、日本最初の本格的政党内閣が成立する。日本の政治体制を変えるきっかけとなったわけである。今回の食糧危機も、90年代以降のグローバリズム・市場至上主義の世界体制を変える、きっかけになるかもしれない。

LinkIcon第3次石油危機(08.6.20)

LinkIcon顔(08.4.22)

引継帳の余白~全国紙デスクの日々 記事リスト

2008年

国際会議(08.8.12)
第3次石油危機(08.6.20)
成長の限界(08.6.13)
顔(08.4.22)
2人の首相(08.4.14)
石原都知事の責任(08.4.1)
花粉症と肥料(08.3.13)
橋下はん、性根見せなはれ(08.3.5)
私には夢がある(08.2.25)
芭蕉は隠密だった?(08.2.14)
中国の闇(08.2.7)
取り付け騒ぎの記憶(08.1.25)
デカ部屋(08.1.15)
政治家の病気(08.1.1)

足腰は弱り体力も落ちたけど相変わらず青臭いこと言っている。そんなオヤジ記者の日常報告。考えるきっかけを提供できれば。 [全国紙デスク]

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