PressRoom.jpプレスルーム引継帳の余白080812

国際会議

引継帳の余白~全国紙デスクの日々

08.8.12

 だいぶ前、ある特派員経験者が「日本の新聞は国際会議ばかり大きく扱う」と嘆いているのを読んだ記憶がある。私もデスク勤務をしていて、海外の特派員たちに恨みを買うことは多い。というのも、これはやむを得ない面もあるのだ。他の業界ではあまり耳にしないが、新聞社内では当たり前のように使われる言葉に「日付モノ」というのがある。その日の発生事件や発表モノの記事を指す。日付モノなら他社も書いてくるから、その日に載せるしかない。

 海外のニュースで日付モノといえば、やはり国際会議だろう。「北京で6ヵ国協議をしてるけど、どうせ進展しないだろうから、今日はアフリカの飢餓地帯のルポを使おう」なんて、選択肢はないのだ。どんなに「アフリカのルポ」が面白くても、紙幅が限られている以上、その日に行われている「六カ国協議」の記事を優先して掲載せざるをえない。

 前ぶれが長くなったが、その国際会議で横綱格は「サミット」だろう。この7月のサミットは、8年ぶりに日本で開催され、各社とも特派員に国内勢を加え、大取材団を北海道に送り込んだ。ただ、サミットは中身のなさでも横綱格である。だいたい世界の首脳が、たかが数日集まって、あらゆる問題を協議しても結論の出るはずもない。かといって決裂もできないから、「大筋で一致」とか「協力を確認」などと空虚な言葉をまき散らして幕を閉じる。北海道洞爺湖サミットが終わった翌日、ある編集局幹部が「正直、何がどう進んだのか。よくわからん」と正直な感想を漏らしていた。

 その点、7月末にジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド閣僚会合は、珍しく見どころのある国際会議だった。決裂したのだから、こんな言い方は変だけど……。農業分野での保護を巡り、米国とインド・中国が鋭く対立した。

 米のシュワブ通商代表が「(インドと中国は)交渉を邪魔するのをやめなさい。さもないと、皆が手ぶらでジュネーブを離れることになる」と牽制すれば、中国の陳徳銘・商務相は「中国がどれだけ交渉に貢献したか、いわせてもらう」とかみついた。国益むき出しの交渉ぶりは、上品で中身のないサミットよりも、ずっと世界経済の現状をわかりやすく示してくれた。

 WTOの掲げる自由貿易の拡大に、正面から反対する国はいない。一方、米国にしても農民票が欲しくて、農業の輸出補助金をやめられない。急成長する中国・インドは、その裏側で多数の貧困農民層を抱える。各紙とも「日本の農業保護は限界」などという論調が目立ったけど、複雑なお家事情はどの国も共通なのだ。関税引き下げを主なテーマとするドーハ・ラウンドは、非関税障壁の撤廃を目指したウルグアイ・ラウンドよりも、もともとハードルが高い事情もある。

 また、今回のWTO交渉では、米国が議論をリードしきれなかった。中国・インドの存在感を見ると、米国を中心とする世界経済秩序というのは急速に崩れようとしていることも実感できる。今回の交渉決裂で、ドーハ・ラウンドの合意まで少なくとも2年かかるという。世界全体で、農業・鉱工業合わせ約1300億ドル(約14兆円)の関税引き下げ効果が失われたという。

 でも……、と思う。逆に今回、無理に合意に持ち込み、各国とも不満を抱えたまま自国に持ち帰ったら、どうなっただろうかと思う。分野は違うが、ワシントン海軍軍縮会議(1921~22年)の結果が日本の軍人たちの反発を招き、その後の軍部台頭への遠因となったことを想記すれば、今回の決裂は仕方なかったのかなと思う。中国・インドはきっと「押さえつけられた」という不満を持ったはずだ。機が熟していなかったのかもしれない。

 あまりにも注目される国際会議は、それはそれで問題あり、なのだろうな。きっと。

LinkIcon第3次石油危機(08.6.20)

引継帳の余白~全国紙デスクの日々 記事リスト

2008年

国際会議(08.8.12)
第3次石油危機(08.6.20)
成長の限界(08.6.13)
顔(08.4.22)
2人の首相(08.4.14)
石原都知事の責任(08.4.1)
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取り付け騒ぎの記憶(08.1.25)
デカ部屋(08.1.15)
政治家の病気(08.1.1)

足腰は弱り体力も落ちたけど相変わらず青臭いこと言っている。そんなオヤジ記者の日常報告。考えるきっかけを提供できれば。 [全国紙デスク]

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