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"掟(おきて)"に沈められたNHK記者--インサイダー取引疑惑

全国紙経済記者の経済コラム

08.1.21

 NHKの記者ら3人によるインサイダー取引疑惑が浮上し、批判を集めている。記者らは、同僚がつかんだ特ダネを悪用し、小銭稼ぎに精を出していた。報道倫理の観点からは悪質、投資家としてはお粗末としか言いようがない。だまし通せると思ったのだろうか。株式市場は、自らリスクをとる覚悟を決めた者だけに入場を許している。「掟(おきて)」破りを、そう簡単には見逃してくれないものだ。

 証券取材に初めて携わったのは、十数年前だ。当時、先輩記者から株の売買を薦められた。「実際にやってみないと身につかない。勉強になる」という理由だった。古くからのしきたりと最新技術が混在する難解な世界。体を張った勝負の場でもある。先立つものが頼りなくて断念したが、自腹を切る気概も必要な気がした。

 場況の解説は、まるで外国語だった。ザラ場、ストップ安、押し目買い、指値注文、PBR(株価純資産倍率)……。取引は信用、先物、オプションと複雑化し、マネーは米国市場に振り回されながら為替、債券、商品の海を泳ぐ。相場見通しは、証券会社も赤字になるぐらいだから、簡単にわかるはずはない。

 相場は、企業業績や景気など基礎的な条件より、売り手と買い手の動きなど需給が左右し、気分や勢いが時に大勢を決める。上がれば下がり、下がれば上がり、上がると思えばまた下がる。移り気な「魔物」を鎮めるため、東証トップは、近所の兜神社に参拝して株高を祈願したりする。昔の人は、格言に残した。「頭と尻尾は、猫にくれてやれ」と強欲をいさめ、「人の行く裏に道あり花の山」と逆張りの勇気を唱えた。「買うべし、売るべし、休むべし」と時には休むことを教えた。

 株をめぐって、新聞は主に株価指数を潮流として取り上げるが、一般的に金融商品であり、本質は企業社会の権力だ。総会屋は影を潜めたが、M&A(合併・買収)絡みで、敵対的なTOB(株式公開買い付け)や株主総会のプロキシーファイト(委任状闘争)も珍しくなくなった。企業の生殺与奪を握り、バブル崩壊はどれだけの経営者や投資家、証券マンを沈めてきたか。市場の底は死屍累々の山が築かれている。

 読者の目は厳しく、記者より精通していることも多い。証券面は、売買単位の変更や監理ポスト入りなど、細かい手入れに気を抜けない。「値上がりしそうな銘柄を教えて?」と悲痛な声で食い下がられることもあるが、電話を黙って切るしかない。

 NHKによると、特ダネは外食のゼンショーがカッパ・クリエイトを傘下に収める内容。昨年3月8日午後3時の取引終了と同時に報道した。3人は直前20分余の間に原稿を読み、カッパ社株を1000~3000株買い、翌9日に売り抜けた疑いが持たれている。10~40万円の利益を得たという。カッパ社株の8日終値は1720円、9日は1890円で寄り付いた。出来高は両日とも7日の2~3倍に膨らんだ。

 新聞各社は、2006年に日経新聞広告局員によるインサイダー取引が発覚後、社員の株売買を制限するなど社内規定を強化した。会社が取引自体を禁じても、すべての問題が解決するとは思わない。しかし、今では、記者が株をやっても得は何もないと考えている。儲ければずるいことをしたと勘ぐられ、損をすれば笑われる。儲かる保証はどこにもない。企業の発表通告のたびに一喜一憂していては、肝心の記者会見が楽しめなくなる。

 株式相場は、サブプライムローン問題の余波で年初から大幅安を記録している。投資家向け説明会では、証券マンがチャートを示しながら、「下がったものは必ず上がる。歴史的な買いのタイミングが到来した」と威勢の良い声をあげる。売りか買いか、見送りか。笑ってみていられるのも、場外の記者だからかも知れない。

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2008年

"掟(おきて)"に沈められたNHK記者--インサイダー取引疑惑(08.1.21)

暮らしにくい世の中。格差は働き方を難し、家計の財布は細り、税金が追い討ち。希望はどこに? "けいざい"を考える。 [全国紙経済記者]

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