[健康=メタボの行き着く先](32)心臓に続く血管が裂ける大動脈解離だった

胸の痛みを診てもらおうと診療所へ行ったはずが「うちでは対処できない」と救急車を呼ばれてしまいました。救急車を待つ間も胸の痛みは増すばかりです。そして救急隊が到着し、ストレッチャーに移されて人生初の救急車となりました。

救急車の中ではあれこれ聞かれたり、何か計測されたりしていました。聞こえてくる会話によると救急車が向かう先は、この地域で救急を専門に担う病院のようでした。当時住んでいたエリアは近隣に大学病院もなければ、信頼できる大病院もありません。

最寄り駅のホームで老人たちが「このへんはまともな病院がねえ」「まったくだ、病院空白地帯だ。ひでえな」と会話しているほどひどい状態でした。その中で、救急専門でそれ以外は紹介状がなければ通院できない――これから向かう病院は、実は自宅近くにありながら謎の場所でした。その実態が判明する時が救急搬送でやってきました。

救急車が病院に着いてストレッチャーが降ろされ、院内を運ばれて行きます。自分としてはもうなりゆきに任せるしかないのですが、「何かドラマみたいだなあ」などと流れていく天井の蛍光灯と、周りを囲む救急隊員と看護師さんという光景にバカな感想を抱いたことを憶えています。しかし、なぜかこのあたりから記憶が途切れているのです。もしかすると麻酔を注入されたのかもしれません。

●意識を失って目が覚めるとそこは天国!?●

目が覚めると、薄ぼんやりと暗い空間でベッドに寝かされていました。視野がぼやけていて、意識もぼやっとしています。昼に来たはずなのに、この暗さは何だろう? 体を少しよじると、あちこちにパイプやセンサーがつながっていることが分かってきました。

「気が付きましたか」と近くにいた看護婦さんが話し掛けてきます。すごい美人だ!(マスクしているのですが)とぼんやりした頭で考えていました。さらに別の看護師さんが近寄ってくると、その人も可愛い! ここは天国なのか、天使に囲まれているのだろうか……。

薄暗い中でそんな妄想をしていました。とはいえ、実際、現実感が薄く、夢の中の出来事のようだったのです。病院に着いてからの記憶がほとんどなく、今朝起きてからを考えると環境が大きく変化しているのですから、余計にそう思えます。本来は診療所でさっさと心電図でも取って、薬を出されて帰って仕事をするつもりだったのです。仕事が山積みの中、痛さが取れないので仕方なく診察所に行っただけです。

そして自分の状況も少しずつ分かってきました。いつの間にか服は着替えさせられていて、薄い患者服を着せられていました。右手には何かが点滴されています。指先には血流量を計る計測器があります。そして心臓の周りには心電図を取るためのセンサーがいくつも貼られているようでした。

あれっ? 頻尿のはずなんだけど、おしっこしたくなったらどうすればいいんだろうと心配になって聴くと「カテーテル(細い管の医療器具)が入っているので、したくなったらしていただいて大丈夫ですよ」と看護師さん。マジか、全然気が付かなかった。いつの間にか尿道にカテーテルを挿入されていたのでした。うわ、いつ“ムキンポ”されたんだよ! 恥ずかしいわあ……。意識がないうちに何があったんだ? 手術でもしたのか。そしてこの点滴は何?

看護師さんは「しばらくは、ICU(集中治療室)で安静にしてくださいね。ご飯はしばらく食べられないので、点滴で栄養を補給していますから」と。おそらく、点滴には麻酔も含まれていたのだと思いますが、ICUではほとんど寝てばかりで意識がない時間が大半でした。日にちの経過すらわかりません。

しかし、ただぼーっと浮世離れしている場合ではないのです。取材原稿を抱えていた自分は、それを誰かに託さないと行けないし、各方面に入院を伝えなければいけません。「すいません、携帯電話で連絡を取りたいのですが」と言うと、「ICUの中では使うことができないんです」と。これは参ったな、と思っていたところ、連絡が取れないことを不審に思った仕事仲間のライターが親経由で入院を知り、強引にICUの中に押しかけてきて「資料が入っているパソコンのパスワードを教えてほしい」と言いました。

親族には病院が入院を知らせておいてくれたようです。とりあえず、最も急ぎの案件はそのライターも関わっている雑誌だったので、これで関係者に情報は伝わることでしょう。ぼーっとしている半寝状態の中でパスワードを聞かれたのには驚きましたが、ICUにはほぼ1週間ほどいたので、これで仕事の問題がほぼ解決して助かりました。

●ICUから一般病室に移って現実世界に生還●

ICU後半の時期は麻酔も軽くなってきたのか、少しずつ意識がはっきりしている時間も長くなってきました。体力的にも回復してきて、ベッドの上でモゾモゾできる余裕も出てきます。そしてようやく、ICUからエレベーターで一般病室に移動する日が来ました。3人の看護師さんが付いてくれ、1人は手を押さえてくれていて、マジ天使! と思えます。

このまま天使に囲まれて本当は天国に昇っていくのではないか、と思いましたが、到着したのは一般病室でした。看護師さんが3人付いていたのは、体重が重い自分を安全にベッドに移動させる介護のためでした。一般病室は窓もあり、明るく、ベッドにはテレビも備えられています。ICUとは雲泥の差です。ようやく、現実世界に戻ってきたような感じがしました。

そして、しばらくすると、ドクターに呼ばれました。症例の詳しい説明をしてくれる時が来たのです。「あなたは大動脈解離で、心臓に直接つながる大動脈の血管が傷ついて、内壁がはがれていました」と言って、CT(コンピューター断層撮影)画像を見せてくれました。意識がないうちに撮られていたようです。

「ほら、ここ。内側がはがれて跳ね上がっているでしょう? 血栓ができる場合もあるし、ひどい時は血管が裂けて大出血になって命を落とすこともある病気です」とドクター。「手術は必要なんですか?」と聞くと「普通は何らかの処置をするんですが、あなたの場合は心臓からの距離もあるし、状態もそれほどひどくはありません。負担をかけないように1週間、安静状態で様子を見て血液をサラサラにする薬も点滴で入れて悪化していないので、このままにしておきます。その代わりあと2週間ほどは入院していただきます」。

麻酔投入は血圧が高いことから血管に過剰な負担をかけるのを阻止し、ダメージを最小にすることが目的だったようです。後々分かるのですが、大動脈解離で何も処置せず様子を見るというのは、かなり運が良いケースのようです。というのも、多くは死に直結する病状だからです。次回は自分を突然襲った大動脈解離について詳しく紹介します。(U)=雑誌・ウェブ編集者、50歳代後半

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