[健康=メタボの行き着く先](47)突然消えた2型糖尿病からのクセ者の透析患者

新しい人工透析クリニックは夜間透析でも、以前の3倍くらいの通院患者がいました。その分、透析技師と看護師の数も多めです。これまでのような2人か1人の技師さんと看護師さんだけという地獄はありません。

それもそのはずで、10人を優に超える人数の患者が入室の合図と同時に入るのです。室内にはその前のクールの患者さんも一部残っています。そうなると、順々に患者さんを穿刺(せんし)して透析を開始するのですが、残っていた患者さんがナースコールを鳴らしたり、透析終わりのチャイムが鳴ったりで、それも処置しなければなりません。なので、入室してすぐの透析ルームは軽いパニック状態です。

そんな中で技師さんや看護師さんと軽くおしゃべりをするのですが、時にごにょごにょと文句を言う人もいます。自分の場合は、どうやったら楽に死ねるかを医学的に思い付いた質問ばかりしていました。早く死にたいのだから、普段からそんなことばかり考えているのです。

殺人フィクションや解剖、病理などの本を読んでいると「これは即死で楽そうだ」という実例にお目にかかれるので、それについて「本当のところはどうなの?」と尋ねてばかりいました。当時の口癖は「空気注射しようよ! てか、寝てる間にして! バレないから!」でした。

しかし、透析器には気泡を感知するとブザーが鳴るように医療事故防止機能が搭載されているのでした。だから「感知装置切ったらどうなるの?」とか、血液の凝固を止める「ヘパリン」を入れなければ死ぬの? などとおかしなことばかり聞いていました。これは今も続いていて、より専門的な医術用語を出すまでに知識も増えました。

穿刺の時に文句を言う人は、たいてい「痛い!」です。これは、自分もあるのですが、技師さんの中には新人で慣れていない人、ベテランだけど荒い人もいます。また、透析歴が長くなると、シャント(血液が本来通るべき血管と別のルートを流れる状態)の指し口の傷が荒れてきたり、シャントが狭くなって穿刺が難しくなってしまう人もいます。高齢者の場合はさらに大変です。

普通に「痛い」は皆が言うことでもあるのですが、中には「痛え! 痛えよ! やめてくれ」とか、田舎なので口調が荒いオッサンもいます。よく、飲食店とかで偉そうにクレームしてるオッサンがいるじゃないですか。あんな感じで不快です。他人事なので「死ねばいいのにコイツ」と毎回思います。今隣にいる奴もそんな感じなので、早く死んでほしいです。

そんな中で、いつも結構なオーバーウエートと、血液検査でリンとカリウムの値を注意されている声のでかい陽気な田舎オヤジがいました。「これは食べ過ぎ、飲み過ぎだなあ、気を付けないと」と医者に毎回の回診で注意されていました。特に血液検査の結果が出た日は「このままだと危ないよ」と言われていたのですが「どうもねえ、酒がやめられなくてねえ、寝る前と週末は特にね」と笑うのでした。最高です。

実際、中2日透析が空く週末は田舎に住む人にとっては親戚や友人との集まりもあったりして、ついつい飲み食いしがちなのです。金曜夜の透析が終わった時の開放感といったらありません。自分もコンビニでつまみっぽいおかずを弁当と別に買い込んでしまいます。当時は、スナック菓子とチーかま(チーズかまぼこ)など、つまみながら動画配信サービスを夜明けまで楽しむために買っていました。透析中に寝てしまうので、夜はなかなか寝付けないのです。

その豪快オヤジに直接聞いたことはありませんが、あの調子だとおそらく2型糖尿病からの慢性腎不全でしょう。体のあちこちにガタが来ていたに違いありません。自分は酒をほとんど飲まなくなっていたので肝臓の数値は通常に戻りました。しかし、あの豪快オヤジはたぶん怪しいです。そんなにぎやかなオヤジがある日、突然消えました。

これはいまだにあるのですが、仕事を止めざるを得なくなって障害年金や通常の年金などで食べていて、家族もいるため朝のシフトに変わってしまう人もいます。また、病気などで入院してしまい、それきりになる、帰ってくる人もいます。

個人情報なので看護師さんにも聞きにくいことなのですが、その豪快オヤジがどうなったのかを、いなくなって半年くらい経った頃に尋ねてみました。すると「それがねえ、わたしも知らないんですよ」と。たぶん知っていると思うのですが、そこは個人情報なので、死亡などでは教えてくれないでしょう。

時折、透析中に状態が悪化して救急車で入院する透析患者もいるのですが、その後戻らなくても、病院に入院しっ放しになってしまうと、後は分からないことがほとんど、といいます。もしかすると入院するか、施設などに入って今も透析を受けているかもしれませんが、一通りの透析データなどは病院に送付してあるので、次の施設への申し送りは病院の仕事なのです。

どこかで今週末も豪快に笑いながら怒られながら酒を飲んでるといいなあ、と思います。(U)=雑誌・ウェブ編集者、50歳代後半

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