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[健康=メタボの行き着く先](38)風邪だと思ったら腎不全でそのまま人工透析
病院の正月休み明けと同時に、点滴と風邪薬をもらって帰ろうと思って駆け込んだのはいいのですが、病院は大混雑。ちょうど下痢・吐き気を伴う風邪がはやっていたので、そういう人が多いのかと思っていました。しかし、時間がかかりすぎて体調が悪化、処置室のベッドで寝させてもらいました。こうして順番を待っている間に点滴を打ってもらえると時間の無駄も省けるのになあ、と思いながら医師の診察を待ちます。結局、診察してもらわないと点滴も打てないんですよね。
処置室にはほかにも自分と同じ症状の風邪を訴える患者さんが何人か。やはり流行しているんだな、と納得しました。ようやく順番が回ってきて医師に症状を話すと、「脱水もあるから点滴は打ってもいいけど、血液検査もさせて」ということで、点滴ついでに血液検査で再び処置室へ逆戻り。いい感じに眠くなってきて「点滴サイコー」と堪能しました。
●「今から手術するから帰っちゃダメ」●
点滴を終えると「これで帰っていただいて大丈夫ですよ」と看護師さんに言われたのでカルテを会計に出して順番を待っていると、突然、医師から診察室に呼ばれました。待っていたのは、例の麻生太郎・副総理似の院長でした。
「危ない、間違って帰すところだった。風邪というのはこちらの誤りです。あのね、血液検査の結果から言うと、もう腎臓がダメになっているから今の症状が出ているんだよ。すぐ人工透析を開始しないと死んじゃうから、このまま入院!」。「えっ、なにも準備してないから1回帰ってからじゃ駄目ですか」。「ダメダメ! あなたの身体は今そんな余裕がある状態じゃないから。緊急事態だから死んじゃうよ」
そんなの初耳なんですけど! 年末の診察でも、そこまで危険だなんて言われてないよ! つまり、年が明けたら腎臓の働きが低下しすぎて、老廃物がほとんど抜けない状況になり、食べ物はすべて毒になって身体にたまり、尿としても排出されなくなっているということでした。
水分も抜けないので、心臓も肥大して何が起こるかわかりません。ついでに肺の中にも水がたまっていくので、放っておけば、今感染が拡大している新型コロナ同様に肺炎で生きたまま溺れ死ぬこともありうるのです。米国テレビの医療ドラマ「ER緊急救命室」などを見てると、腎臓がダメになると臓器不全で次々と臓器が死んでいって命の危機というシーンもよく出てきます。「ということで、オペをするので、待っててね」
なんでオペ!? 腎臓だめになったから取り出しちゃうの? 心臓とかに問題でも? と、ぼーっとしてるうちにオペ服に着替えさせられ、ストレッチャーに載せられ、ものすごく多い人たちに囲まれて大きなガラス面がある手術室へ。こんな部屋あったんだ。それにしても人が多くて慌ただしいな。
のんびり構えていると体中にセンサーが貼り付けられ、機器が稼働開始し、次々と機械やオペ器具が運び込まれてきます。自分は特に何もすることがなく、ただただなすがまま。やがて、局所麻酔もかけられ、記憶があやふやになってきます。
●局所麻酔で緊急カテーテル手術!●
この時に憶えているのは、長い透明のカテーテル(医療用の柔らかい長い管)を体内に挿入され、血管内を進む様子を先生と一緒にモニター越しに見ていたことです。よく憶えていないのですが、カテーテルは最初に大動脈がある太もも付け根から挿入されて、心臓まで達した記憶があります。へえーうまいもんだなあ。これで心臓とかも手術しちゃうんだよなあ、と思いました。
おそらく、大動脈解離になった時も破れどころが悪ければ、この手術でステント(人体の管状の部分を管腔内部から広げる金属でできた筒状の医療機器)を挿入して流れを確保したのではないでしょうか。
この時に心臓を見たことについて、現在世話になっている透析クリニックの技師さんに訊いてみたところ、「手首にシャントを作って大丈夫か、あと急ごしらえの透析用のカテーテルを心臓からの大動脈、静脈に突っ込むから、問題ないかを確かめたんじゃないかな。どっちにしろシャント造成手術までに心臓のCT(コンピューター断層撮影)をすることになるから、いま確かめちゃえということもあるよ」とのことでした。シャントは、血液が本来通るべき血管と別のルートを流れる状態を指します。
手術中は院長が「○○ミリ持ってきて!」などとひっきりなしに指示しています。あとで分かったのですが、指示を受けていたのは病院の法人グループでやっている医療系専門学校の学生でした。実習です。やたら人が多いのは見学も兼ねての学習でしょう。こんな簡単な手術なの、なんでこんなに人が多いのだろうかと不思議だったのです。学生たちは全長が長い袋入りのカテーテルを何本も持って帰ってくると、袋を破って院長に渡していました。
惜しみなく! そりゃそうだよな。でもこれ使い捨てなんだあ。もったいないな、などと考えてましたが、人体に、しかも血管内に入るものなので、使い回しはご法度です。もし使い回している病院があったら怖いです。
手術が終わると、心臓の横からパイプが2本突き出していました。ここから透析をするようです。パイプはカテーテルで、隔離を起こした大動脈と、血液を心臓に戻す大静脈へそれぞれつながっています。さすがにこの日は手術後ということもあり車椅子での移動で、当分はトイレに行く時も看護師さんを呼ぶように言われました。
●ついに“機械人間”になってしまった●
病室は普通の8人部屋で、病室があるのは幹線道路をはさんで病院の向かいにある病棟でした。以前のクリニックと違うのは、まだ新しい病棟なので臭わないこと。しかも広い。この日は時間が遅かったので実際の人工透析はなかったのですが、翌日は病棟の中にある狭い透析質で1人、人工透析を受けることになりました。
心臓の横から突き出していたパイプに透析器から伸びるパイプをつなぎ、血液を透析器内に取り出して体外で循環させるのです。うわああああ、と声を出したくなるような状況です。人工透析中は透析器を通して血液の清浄と、小便で抜けない余計な水分を取り除いているわけで、透析中の自分はまさに人工的に生きている“機械人間”のようなものです。心臓の横から抜けていく血液と体内に戻ってくる血液。パイプはまさに人工の動脈と静脈なのです。
通常は手首にシャントを増設するのですが、自分の場合はよほど緊急を要する急性腎不全に近い症状だったのでしょう。下痢が止まらず、食べるとぜんぶ吐いてしまい、食欲がないのは、身体が食べると毒になるものをすべて拒否しているということなのです。もう、人工透析がないと食べることもできないのか。ホントに機械と一緒で一人前……。
そして、いよいよ人生初となる人工透析を体験することになります。(U)=雑誌・ウェブ編集者、50歳代後半
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