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[健康=メタボの行き着く先](30)入院しても血糖値は戻らず、鬱(うつ)に苦しむ
交通事故を機に完全な鬱(うつ)状態になった自分は、薬が切れても診療所へ行くのもおっくうで、薬抜きで2週間ほど高血圧と糖尿病を放置していました。ある意味「薬を飲まなくても血圧くらい大丈夫だろう」「ていうか、放っておくとどうなるんだろう」ということを試してみたくなったのです。何かと自分で生体実験してしまうのは、悪い癖です。
放置した理由はもう1つあって、この頃は毎月の薬代が3万円程度(精神科も含む)になっていて「今後は、毎月この金額が固定費になるのか」と絶望的な気分になったからです。薬代は確定申告で控除してある程度は取り戻せていましたが、月々の出費としてはかなりの額です。
このほか、自分は離婚後も家のローン代を払っていて、とても新しい家庭を築こうという気になれません。決定的な出会いが特になかったこともありますが、子供は離婚を経験し、新しいパパ候補にも会っています。そんな中で自分が新しい妻と家庭を築いてしまったら、とても嫌な思いをするだろうな、と考えました。身体は入院しなければいけないほどボロボロでしたが、その1点は守っていたのです。
この時の入院では、薬を断っていた期間が長かったせいか、数値が劇的には改善しませんでした。入院当初は降血圧剤とビタミン入り生理食塩水をひたすら点滴。食事も控えめで定期的にしっかりインスリンを打ち、薬を服用する日常を取り戻すことから始まりました。
だるすぎて入院したので、当初は散歩する気にもなれませんでした。症状が改善してきたのは、入院から数日過ぎてからでした。だるさが軽くなり、何とか日常生活が普通に遅れそうな感覚が戻ってきました。
●厳しい食事制限中にテレビのグルメ番組は拷問●
この時の入院は血糖値が高過ぎたこともあって、食事制限が厳しいものでした。そんな中、ベッドで見るテレビはグルメものばかり垂れ流しています。「に、肉が思い切り食いたい……ビールをグイッと飲みたい、ああ、ラーメンもいいなあ」と食への欲望で頭の中がいっぱいになります。
糖尿病や高血圧などメタボリック症候群関連の病気で入院していたり、患者だったりする人はテレビで不意に映し出されるグルメ映像をあまり見ない方がいいかもしれません。雑誌やウェブサイトでグルメ写真を見るだけでも食欲をそそられます。
これは糖尿病患者にとって、一種の拷問です。糖尿病患者が年々増えていることを考えると、視聴率やページビュー、「いいね」が取れるからという理由でのグルメ映像・画像の氾濫が、患者増に一役買っているのではないか、とも思えてきます。そのくせ、最近はテレビで芸能人の人間ドッグ検査まで見世物にしているのですから、マスコミとは何かを考えた時に「何だかなあ」と思わずにいられません。
治療している人はまだしも、予備軍の人や、糖尿病や高血圧だけど治療をしていない人にとっては、食欲を高めさせられることで過剰に食べさせてしまうことになりかねないので、グルメ番組や記事には気を付けてほしいと思います。
タバコへの風当たりばかり強くなっていますが、実は食物・飲み物、ひたすら甘味が増していくいく野菜や果物なども、日常的な過剰摂取は人体に毒であることは覚えておくべきです。テレビではよく「あっ、これ甘い!」などと野菜の取って食いを放送していますが、裏を返せば糖度がそれだけ高いということ。甘ければありがたい、という風潮も考えものです。
●鬱の薬切れに伴う特有の離脱症状に悶絶●
それはさておき、自分の血糖値は結局、入院後は仕事が忙しくなり、九州出張がまた始まると、乱高下が再発してしまいました。だるいはだるいのですが、もう1つ困ったことが起きます。今度は多忙すぎて鬱の薬をもらいに行けなくなったのです。
鬱と糖尿病は別の医院で受診していて、鬱の薬はパキシルでした。この薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)として眠気が従来のものより少ない薬として期待されていました。ところが依存性が高く、切れると自分の場合は頭がきしむ感覚に襲われ、とてつもなく深いです。例えるのが難しいのですが、頭の中で「キーン」という高周波が回っている感じ。実際、この症状が始まると難聴っぽくなります。これこそ、まさにパキシル切れ特有の離脱症状です。
鬱のクリニックは2週間に1回の予約制だったのですが、行き損なうことも多くなり、パキシルが1週間も切れてしまいます。そのため、九州に着いた途端に糖尿病のだるさと頭のきしみが同時に襲ってきて、救急病院に直行ということもありました。結局、九州でメンタルクリニックに駆け込み、パキシルを出してもらいことなきを得たのですが、減薬はいまだに果たせていません。
症状としては鬱が強くなくなっても、パキシルの離脱症状がひどいために薬をやめられないのです。結局のところ、いまだメンタルクリニックに通いつづけていますが、鬱は軽くなっているはずなのに、作業が多い日などは、服用して1時間たたないうちに頭がきしみだし、追加でもう1錠飲む始末です。ひどい時などは1日3錠飲まないと収まらない日もあります。減薬どころではありません。対処法としては経過を見るしかないというのも、頼りない話です。
パキシルをはじめとするSSRIは、アメリカの製薬会社などによる一大キャンペーンによって日本で鬱の新しいイメージと同時に普及しました。メンタルヘルスがカジュアルなものとなり、次々に新たな症候群が普及し始めたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。確かに薬として効果もありますが、鬱が直ればすっぱり縁を切りたいものです。
●メンタルヘルスは糖尿病と無関係じゃない●
自分はメンタルヘルスと縁などない、という人もいるでしょうが、鬱やパニック障害などは突然、やってきます。不眠が原因の人も少なくありません。それは、人生の転機とも関係していますし、年齢的なホルモンバランスの変化とも関わりがあります。
例えばあなたが会社の検査で「要再検査」を通知され、再検査した結果「糖尿病で心臓も肥大していますし、血管の硬化もありますね。いますぐ治療を開始しないと失明の恐れもありますよ」とドクターに言われたらどうでしょうか。
少なからず、衝撃を受けるはずです。そして、ドクターからは血液検査の結果から血糖値の高さや脂肪の多さなどを具体的な数字で指摘され、その数字が高めだと不安に襲われるでしょう。今までと同じような飲食をしていたら死ぬのか、失明したらどうなるんだろう、仕事は? 生命保険にはもう入れない、子供が成人になるまで生きられるかな、そういえば、父方は梗塞とか不全で死亡してる人ばかりだ、寝たきりになるのか……などとネガティブな思いに支配されます。
糖尿病に関する本や記事、ウェブサイトなども当たるはずです。しかし読めば読むほど、知れば知るほど不安になるはずです。その結果として、鬱になってしまうことは十分にあり得るのです。特に真面目な性格の人ほど、精神にダメージを受けがちです。
ですから、メンタルヘルスは糖尿病と無縁ではないと思ってください。この連載では、いい加減な性格で自分を甘やかし続けた中年男がどんな人生を贈ってきたかを描いています。連載を読んでいて「何でここで違う方向を選ばなかったかなあ」と思えるシーンがきっとあるはずです。そこで自分とは違う、正解の方向にかじを切って、人生を立て直してください。決して真似をしないことです。
ちなみに、2005年最後の2ヶ月の血糖値記録が出てきましたので、掲載しておきます。昼間はインスリンを打っていません。そして夜食も食べていたので、血糖値が日によってバラバラです。食生活がコントロールできていない証拠で、このままだと再度入院になるのは明らかです。改善が絶対的に必要でした。(U)=雑誌・ウェブ編集者、50歳代後半
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